(晴美×千里)Kissから始まるLove Comedy

放課後、いつもの事ながら私の家に来ていた千里に、改めて抗議する。
「もぉ〜!なんであんなのバラすのよぉ〜!」
「別にいいじゃない、減る物でも無いし。」
今日の学校での出来事、心の闇鍋と称して出てきた私の心の闇、自作ヂャンプ。
それをクラスのみんなに詳しく暴露した事について、千里に抗議しているのだ。
「いいじゃない、私には良い思い出だもの。」
「私は忘れたい思い出なの!!」
抗議するもあっさり交わされてしまう。
「うー、お、覚えてなさいよ…」
「あら、いつでもどうぞ。」
ふふんと、千里は全く怖がる様子も無く紅茶をすする。
悔しい…、どうにかして千里をギャフン(古)と言わせたい。
しかしながら敵も去る事ながら、ちょっとやそっとの事で私に屈する千里では無い。
悩む私を横目に余裕の表情の千里、く〜っ、悔しい!
しばらく考えて、私の中にある考えが浮かぶ。
(ニヤマリ…これだ!)
千里の顔を覗き見ると、全くもって警戒している様子は無い。
(今だ!!)

私は千里の肩を掴んでその場に押し倒す。
私の下に組み敷かれる形になった千里は、突然の出来事に何が起きてるのか解らないといった表情でこちらを見上げている。
「えっ…晴美?」
私は不敵に笑って早速実行に移す。千里の唇を奪ったのだ。
「っ!!?」
意外に純情で潔癖な千里には、こんな不意打ちのキスこそ、どんな攻撃よりも効果があるに違いない。
まさか私にされるとも思っていないだろうし。
それでしどろもどろになった千里を見れば、私の気も少しは晴れるというもの。
ふふ、驚いた千里の顔が目に浮かぶ…。
さてさて、その顔を拝むとしましょうか。
そんな期待を抱きながら唇を離して身体を起こす。組み敷かれた千里と目が合う。

「…へ?」
驚いた表情をしていると思っていた千里はそこに無く、逆に私の方が目を丸くしてしまう。
私の体の下で千里は、微かに頬を赤らめて、潤んだ瞳で私を見つめていたのだ。
予想とは全く異なる状況に、どうして良いのか解らず固まってしまう。
「えっ…と、あの…」
尚もその瞳で私を貫く千里が、小さく口を開く。
「はる…み…」
弱々しくて、少し掠れてて、今にも消え入りそうな声で私に呼びかける。
「!!」
―私の中で何かが切れた。

私は再び千里に覆いかぶさり、2度目のキスをする。
さっきの悪戯みたいなのじゃなく、本気で相手を求める様なキス。
もう、止められなかった―。



「………」
「………」
全てが終わって服を直した後、しばらく私達は無言だった。
(しちゃった…千里としちゃった…!!)
軽い冗談のつもりが、まさかこんな事になってしまうなんて…
千里は反対側を向いて俯いている。
(わ…怒ってる…)
それはそうだ、信頼していた親友に唇どころか身体まで奪われたのだから。
この場を取り繕う言い訳や冗談なんて微塵にも思い浮かばなかった。
(謝ろう…、それしか無い)
許して貰えるか解らないけど、悪いのは私だもん。
私は意を決して、口を開く。
「ゴメン!」
千里は先程見せなかった、驚いた様に目を丸くした表情を向ける。
「こんなの…嫌だったよね…、ホント…ゴメン!」
そう言って頭を下げる。
すると千里は思いの外優しい声をかけてきた。

「ううん…いいの、ちゃんと拒否しなかった私も悪いんだし…」
予想外の返答に、私は何故かムキになってしまう。
「そんな…千里は悪く無いよ!」
「だって…!!」
すると千里はぽろぽろと涙を流して泣き始める。
罪悪感が…、激しい罪の意識がとてつもなく大きな波となって押し寄せる。
(私はなんて事をしてしまったんだろう…)
私も耐え切れず涙が溢れてしまう。
「ち…り…あの…ゴメ…」
もはや言葉にならない。
(ああ、これで私達の友達としての関係もおしまいかな…)
そう思ったら涙はとめどなく溢れてきた。
そんな私に涙を堪えて千里が話を始める。
「あの…ね…、晴美…」
「ぅえ?」
私は返事すらままならない。でも千里は続けた。
「あのね…、私、知らなかったから…、晴美が…そんな風に…
私のこと思っていたなんて…」

「………………………………へ?」
頭の中が真っ白になる。止まらないと思っていた涙は、蛇口でも締める様にあっさりと止まる。
でもそんなのお構い無しに千里は続ける。
「キスされた時…、そりゃすごくびっくりして…、でも、そういう事なんだって気付いて…
女の子同士でそんな事…、って思ったけど、晴美…、男の子同士とか大好きだし…
別に不思議じゃないなって…」
ほうける私を置き去りにして、千里の独白は続く。
「私は…そんなの考えた事も無かったし…、晴美は大事な友達だし…、
しかもいきなりあんな風に…、身体を求められるなんて…びっくりしたけど、
晴美…男の子同士の…、その…ああいうの、いっぱい読むし、描いてるし…、
だからその…すごく…、エッチ…だろうから不思議じゃないなって…」
…ひどい言われ様だ。
「私…晴美の事もちろん嫌いじゃないし、むしろ好…き…だけど…
そういう…恋愛感情とかはわかんなくて…、すぐには答え出せなくて…
でも、今ここで拒否してしまったら…、あの…その…!」
再び泣き始める千里。

「も、もう…、友達で…、いられなくなっちゃうんじゃ…ないかって…
怖くなって…だから…だから…私…、ふぇっ…ごめ…ん、なさ…ぃ…、ごめ…」
千里の瞳からとめどなく涙が溢れる。
そんな千里がいたたまれなくて、私はとにかく強く抱きしめた。
「っ!?」
「違う…違うの!千里はちっとも悪く無いの!」
「だって…だってぇ…」
私を庇うように、千里は必死で自分の無罪を否定する。
「お願い聞いて、その…実は…」
私は千里に真実を伝えた…。





――――――――――――――。
「…………はぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!!!????」
千里の怒りと呆れの混ざった叫びが部屋中にこだまする。
「いや…その…つい出来心だったんだけどね、まさかこんな事になるとは…」
「出来心…って、あ、あんな事までしちゃったのに!?」
「それは…何となく流れで…」
「何となくって…あなたねぇ!!!」
先程までと打って変わって、千里は怒りの形相で私を糾弾する。
でもそれが何だか嬉しくて、ニヤニヤしてしまう。
「いや、思いの外千里が可愛くってさぁ〜」
「……っ」
そう言うと、怒りに奮えていた千里の顔が一転して真っ赤になる。
そのまま勢いも萎えて黙りこくってしまう。
私はそれを見て心を決めて話を始める。


「いや…、私も、そんな風に千里の事考えた事無かったと思うし、
さっきのだって、ホント成り行きでしてしまった事だし、
それはホントに申し訳無いって思ってる…。ゴメン。」
コクリと千里がうなづく。
「だけどね、泣きながら千里が、私の事、あんなに考えてくれてたなんて…知らなかったから。
私嬉しくって…、千里の事もっと大切にしたい…、他の誰よりも、千里を大切にしたいって…」
「…!」
俯いていた千里が顔を上げる。
「千里…、好きだよ。ううん、好きになっちゃった」
千里が今日一番の真っ赤な顔を見せる。
「は…、晴美?」
「今度は冗談なんかじゃないよ、ホントに、好き…大好きだよ」
私ははっきりと言い切った。
「あ、あの…」
「さっき私の事好きって言ってくれたでしょ?」
「あれは…、やっぱり…よくわかんないの、女の子同士で…とか…」
「あんな事までしちゃったんだもん、私はちゃんと責任取るよ?」
「責任って…、でも女の子同士だし…その…」
ボソボソと尻つぼみなりながら再び俯いてしまう。

「そんなの関係ないよ、私と千里がどうかって事なんだからさ」
「晴美と…私…?」
「そ、他の人がどうとか一般論がどうとかさ。現に私は千里を好きになっちゃったんだから」
「…あ、あんまり何度も好き好き言わないでよ…」
千里は恥ずかしそうな、拗ねたような表情を見せる。
「で、千里は…どうなの?」
「…」
千里はしばらく考えた後、小さく深呼吸して私を見つめた。
「私も…好き、好きになっちゃった…かも」
千里が精一杯私の気持ちに答えてくれる。
「かもって…、きっちりしてないね」
「い、いいのよ!文句言うな!」
「クスッ、何よそれ〜」
ようやく緊張が解けてしばらく笑い合った。
いつも通りなのに、こんな時間が堪らなく愛しい。
なんかちょっと仕返しするつもりが大変な事になっちゃったけど、
今こうして笑顔になれたなら、それでいいよね?
“親友”から“恋人”にステップアップ出来たんだから。
それからお互い見つめ合って、
私達は今日で一番幸せなキスを交したのだ。
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